俺的解説 - 2023 RedBull X-Alps 前半

今回は2023年のRebBull X-alpsを自分なりに解説して見ようと思います。正直、様々なことが同時進行で進んでいくのですべてを把握するのが難しいです。完全に自分目線で語っていきますので、「こういう見方もあるのか~」ぐらいの参考にして貰えればと思います!

 

世界で最も過酷なレースと言われるRedbull X-alps。 自分の足とパラグライダーだけでヨーロッパの山脈1200kmを11日かけて移動する、2年に1度の大レースだ。

 

選手はパラグライダーなどの機材約10kgを背負って何キロも自分の足で山を登り、高いところへ移動する。テイクオフするのに適した開けた場所を見つけて、そこからテイクオフ。経験や知識から上昇気流の位置を予測して、うまく風を捕まえながら進んでいく。レースだ。文字通り、己の体力と精神力の限界に挑む事となる。

 

今大会ももちろん、最も注目されているのは7回連続優勝している絶対王者Chrigel Maurer。毎回天才的な飛びと圧倒的強さで2位と何百キロも差をつけて、ぶっちぎりの優勝してきている。

「今年もChrigel Maurerがどんなすごい飛びをしてみんなを圧倒するんだろう!」という期待と「 もしかして、あの絶対王者Chrigel Maurerを負かす選手があらわれたりするのか、、、?」という2つの相反する期待をファンたちは持ちつつレースを見守っている。

 

この後者の期待、「誰がChrigel Maurerを負かすのか!?」で湧いたのは前々大会となる2019年の大会だ。結果的にはいつものようにChrigel Maurerが優勝してしまうのだが、フランスの若き天才Maxime Pinotが後半まで食らいついてきた。それにより多くのファンは後半、差が開くまでついにChrigel Maurerが負ける時がくるのか!?とドキドキしながら見守る展開となった。ちなみに前回大会の2021年ではまたChrigel Maurerが絶対王者の強さを見せつけて圧倒的な差でゴールをしている。

 

そんな中、2023年のRedBull X-alpsが開催された。
例年同様Chrigel Maurerがまた勝つのか!?
いやいや今年こそMaxime Pinotがジャイアント・キリングを果たす可能性もある!?
なぜならMaxime PinotはX-Alpsの直前に開催された世界選手権でも優勝を果たし、絶好調だ。間違いなく波にのっている。

今年こそ、ついに、、、、?

 

そんな注目のレース展開の前半となる部分を解説しようと思う。4日目が終わった段階でトップ選手が折返し地点となるTP(ターンポイント)10をまわった所あたりだ。

4日目で折り返し地点を越えたのはかなりハイペースで、それだけ天気に恵まれているようだ。ハイペースな前半の部分を見ていても今大会は今までとかなり違う展開となっている。


今まではChrigel Maurerがトップを走り、Maxime Pinotや他の少数の選手がなんとか食らいついていくというのが通常のパターン。しかし今大会は上位10名くらいの選手が固まっていて差がなかなか開かない。むしろ他の選手が飛びでChrigel Maurerを抑えってリードする時間もでてきている。さらに今回はたとえ差が開いてChrigel Maurerが20km程リードしたとしても、後に続く選手が別のルートで効率よく進み、追いついてきてしまうのだ。この展開は今までにない。

 

一番ビックリしたのは3日目から4日目にかけての展開だった。3日目TP7の南約15km地点に6名くらいの選手が固まって夜を迎えた。若くてパワーとスピードのあるMaxime Pinotがランニングでリードして、他の選手より2km先に進み、ここで3日目が終わるのかなと思ったところで仕掛けたのがChrigel Maurerだった。ナイトパスを使い、ホッケンホルン山脈の中腹まで夜中に移動。その朝4時半にはまた移動を開始して6時前には頂上に到着。6時すぎにはその日最初のテイクオフ。約10km離れたTP7にまっすぐワングライドで飛んでいき、6時40分にはTP7に到着してしまった。自分はまさか届くとは思っていなかった。。。


続く2位のMaxime Pinotが山頂からテイクオフしたのはその1時間後の7時40分頃。その頃にはChrigel Maurerは徒歩で向かうTP8のニーゼンの3合目くらいのところにいて、9時半頃にはTP8に到着。しっかりサーマルの出ている10時前にはまたテイクオフしていた。

 

Chrigel Maurerのこの動きは「見事」としか言いようがない。4日目を一番効率よく進めるよう、サーマルが安定して出る10時ごろにTP8からテイクオフできるようにするにはどうしたらいいかを逆算しての作戦だったのだと思う。ホッケンホルンからTP7までワングライドで届くとは他の選手も思っていなかったんじゃないかと想像する。おそらく他の選手はホッケホルン山頂に向かう途中でChrigel MaurerがワングライドでTP7に到着したと無線で報告を受けたときには「やられた!!」と思ったことだろう。2位のMaxime PinotがTP8をテイクオフしたのが1時間以上遅れた11時。すでに25kmも差が開いていた。

 

この見事であり、なんとも美しい作戦で圧倒的な差をつけたChrigel Maurerがここから独走していくものだと自分は思っていた。しかし、そうならないのが今年のX-Alpsなのだ。TP8と9の丁度半分くらいのところで上げあぐねているChrigel Maurerに後続がどんどんと迫り、南側の別のルートを進んだMaxime Pinotが13時頃には追い抜いてしまったのだ!また、Chrigel Maurer同じようなルートを辿った3位のPal Takatsも素晴らしい飛びで追いつき3人の集団で飛ぶことになってしまった。

作戦が見事にはまり、ここからが自分のレースだと思っていたであろうChrigel Maurerとしてはこんなにすぐに追いつかれてしまい、とても悔しかったのではないかと思う。

 

夕方、TP9、モンブランの手前で風が強く多くの選手が降ってしまいそこで生き残ったChrigel MaurerとMaxime Pinotは一気に進みTP10へ。TP10は山頂にあるのだが、山頂までうまく上げれたChrigel Maurerに対し、Maxime Pinotは山の中腹で降ってしまったのでその分10kmほど遅れることとなった。こういったところでの強さが絶対王者らしいところだ。

 

また、TP8~10で注目したいのがDamien Lacazeだ。モンブランの北側の谷で多くの選手が降ってしまったのに対し、彼はそのゾーンを大きく迂回するルートを通り6人を一気にゴボウ抜きして一時3位に浮上している。大正解だったこのルート選択はおそらく、地上のサポート部隊がうまく状況を無線で伝えて、迂回ルートでいけと指示しているのではないかと想像している。そう。X-Alpsは情報戦的な要素もあり、車で選手を追いかけるサポートチームの力量も非常に重要らしい。

 

4日目が終えた時点で1位はTP10をトップで通過したChrigel Maurer。2位は約20km遅れのMaxime Pinot。3位はそこから約10kmちょっと後方で、なんとかTP10に届いたPal Takatsとなった。

 

また20kmものリードを得たChrigel Maurer。ここから一人、一気に突っ走しることができるのだろうか。しかし今大会のMaxime PinotやPal Takatsといった他の選手の飛びのパフォーマンスがすばらしい。また追いついてしまうのではないかという期待のほうが上回ってしまっている。

 

後半の展開に目が離せない!

 

 

~ 俺的注目選手解説~

さて、ここからは追加で自分が一番注目している選手について熱く語って行きたいと思う。

 

その選手とはPal Takats。

Pal Takatsはアクロバットの元世界チャンピオン。第二世代のパイオニア的存在だ。パラグライダーのアクロバットを俺的歴史解説をすると、Raul RodriguesとFelix RodriguesのRodrigues兄弟が第1世代のパイオニアにあたり、Pal Takatsは第二世代のパイオニアというところだろうか。

 

第一世代のRodrigues兄弟がSAT、タンブリング、ミスティーフリップなどのアクロバットの基本技を開拓していった。それに対し第2世代のPal Takatsはそういったアクロバット技を繋いで連続して技を出せることを見つけた人であり、そこから沢山の新たな複合的なアクロバット技を開拓した人に当たる。

第1世代のアクロは1つトリックをやったら通常滑空に戻し、次のトリックといった感じでトリックとトリックの間に小休憩を挟むような流れだった。それに対し第2世代のアクロはミスティーフリップ→ヘリコ→SAT→タンブリングと繋げることで高度の許す限り、縦にも、横にも、斜めにもグルングルン連続で回り続けることができるようになった。

↓その辺のアクロのことを熱く語られている動画もあるので良かった見て欲しい↓

私が元々アクロに憧れていたこともありPal Takatsの動画やSNSはパラグライダーを初めた頃からずっと見てきた親近感がある。また日本に来日したときに直接お会いする機会もあって色々お話させて頂くこともある。やっぱり人間ですからね。会ったこともあり、憧れている人は応援したくなりますよね。

 

そんなPal Takatsは数年前にアクロを引退し、現在はクロスカントリーやレースに力を入れている。2019年のレースのワールドカップで3位をとっており、2017年のX-Alpsにも出場して結果は7位だった。「アクロ上がりのパイロットはレースも強い」とよく言われるのだが、まさにその代名詞的存在だと思う。

 

さて、アクロ上がりのレースパイロットであり、5年ぶり2度目のX-ALPS参戦のPal Takats、今大会はどんな感じかを一言でいうと「神がかっている」としか言いようがないすごいパフォーマンスを見せている。

 

レーススタートの1日目、一番最初にテイクオフしたがPal Takatsだった。1日目は天気がイマイチで雲底も低く、テイクオフ上空で他の選手が移動せず、ずーーーーっと様子見をしていたのだが、Pal Takatsはまっさきにテイクオフして真っ先に一人で先に進んでいった。パラグライダーというのは単独行動より集団で行動するほうが圧倒的に有利になる。ある程度広がって飛ぶことで誰かが上昇気流を見つける→みんなで上昇気流をシェアして上げる→先に進む→進んだ先でまた広がってみんなで上昇気流を探すといった形でみんなで協力することで単独行動よりも圧倒的に効率が良くなる。

なので条件の悪い1日目では単独で先行するPal Takatsはセオリー的にはどこかで低くなり、そのまま降ってしまう。そのあと、後続集団が高く上を飛んで追い抜いていく、、、、。みたいな展開になるのかなと思っていた。ところが今大会のPal Takatsは神がかっていて、低くなってもしっかり上げ直してどんどん前に進んでいく。TP2には一番に到着した。残念ながらTP2の先で他の選手に追いつかれてしまうのだが、ここからモードを変えてしばらくは集団と一緒に行動を共にする。しかし途中でさっと一人だけルートを変えると、また独自行動が始まった。このルートがうまくハマり、一人先を行った時間帯もあったりした。

 

今大会のPal Takatsは集団で動くところと、一人で動くところ、その判断がとても良く、飛びのパフォーマンスが素晴らしい。協調するべきところではしっかりと付いていき、たとえ悪条件でも、ここぞという場面ではたとえ単独でも前へ進んでいく勇気、その先で選択を正解にしていく飛び力。すばらしいの一言だ。

 

更に面白いのは「無理をしない」点だ。今の季節のヨーロッパは日照時間が長いので20時くらいまでは上昇気流があり、うまく飛べば21時前くらいまでは飛べてしまう。フライト後、だいたい他の選手が頑張って22時位までは足で更に先へ進むことが多い。だがPal Takatsはフライト後ちょっと移動するだけで、無理せずしっかり休むパターンが結構ある。(もちろんここぞというところは遅くまで移動する日もあった。)

頑張って移動しなかった分、翌朝の時点では少し差が出来てしまっているのだが、「神がかった飛び」でいつの間にかトップ集団に追いついてしまう。もしかしたらしっかり休んでいることで疲労が堪らず、フライトのパフォーマンスをあげることに貢献しているのかもしれない。

 

自分の飛び、自分のペースをしっかり持ちつつ、周りと協力するべき時はしてガンガン前に進んでいるPal Takats。

まじでかっこいいので是非注目してみてほしい!

 

 

 

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